2023/1/31
平成28~31年(2016-2019)の修復工事では、経年により変色した「大広間」の壁紙を、新旧の技術で再現して張り替えました。
作業はすべて、今では失われつつある、京都の職人さん【株式会社 丸二】の技によります。
旧壁紙のはぎとり
旧壁紙の調査
蛍光X線分析を主とした調査の結果、 黒ずんでいた菱形文様は、真鍮(銅+亜鉛)による金色と銀の2色刷と判明しました。経年により、銀は黒色に、真鍮は銅が緑青化して緑がかった褐色に見えていたのです。
組子の修理
壁紙の下張り
可能なかぎり旧来の手法を踏襲しましたが、下張りは反故紙を利用せず、新たな和紙を、厚さや糊付けを変えて七重に貼り重ねた上に、本紙を上張りしました。
①骨縛り
厚めの楮紙と濃いめの糊により、組子の暴れと型くずれを防ぐ
②胴張り
虫害や変色につよく、燃えにくい緑色の名塩和紙(雁皮に泥土をまぜた和紙)により、骨が透けて見えるのを防ぐ
③田の字簑
少し濃いめの糊を田の字につけ、緩衝となる空気層をつくる
④簑縛り
楮紙を押さえつけ、壁面化させる
⑤浮け
楮紙により通気のための層をつくり、下地の灰汁を通さない
⑥ 二重浮け
⑦浮け縛り
茶色の機械漉和紙(混入物がない、のびが少ない)により、下が透けず皺がでない
壁紙の本紙上張り
本紙は越前の手漉き和紙です。
和紙を漉くための枠「漉きぶね」も、「大広間」壁紙のサイズに合わせ、通常の襖のサイズよりも大きくなっています。
金銀2色の文様はスクリーン印刷。
顔料は変色しにくい、雲母と酸化チタンからつくられる顔料を用いています。
丈夫な越前の手すき和紙に、新技術で刷られた輝きが、100年後まで変わらずに続いていくはずです。ただし、新しい技術なので、まだ100年の実績を誰も確かめてはいないのですが……
壁紙が張り替えられた「大広間」は、とても明るく軽やかで、修復前とは印象がガラリと変わりました。
(株)御花は、この「大広間」を結婚披露宴の会場としても活用しています。
金銀でおめでたく、華やかな宴にピッタリ。
100年前の建築当初には予想もしなかったはずなのに、先見の明でしょうか……
しかし、明るさと軽やかさのヒミツは壁紙だけではありません。
【立花伯爵邸たてもの内緒話】
明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の、内緒にしている訳ではないのに知られていない、声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。
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タグ: 平成の大修理, 立花伯爵邸「大広間」
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2023/1/26
四分一と書いて、シブイチと読みます。
辞書には、
①4分の1。四半分
② 銅3、銀1の割合で作った日本固有の合金。装飾用。朧銀。
③室内の貼付壁をとめるために周囲に取り付ける漆塗の細い木
と3項目の説明があります。
※広辞苑・大辞林・大辞泉の記述を要約
今回の「四分一」は③のことです。
わたしは、合金の②は刀装具などでみて知っていましたが、建築用語の③は立花伯爵邸の修復工事を担当するまで知りませんでした。
しかし、立花伯爵邸「大広間」を見学された方はすべて、③の「四分一」を目にしているはずです。
おわかりいただけたでしょうか?
この、黒漆塗の細長い木材です。
「四分一」とは、4分×1寸、つまり断面が約12㎜×約30㎜であることに由来する呼称です。
壁や床などの境目を、美しく始末するための「見切り材」の一種であり、おもに紙や布を貼った貼り付け壁の縁に取り付けられています。
実際に見る方が断然わかりやすいのですが、写真を凝視すると、各区画の壁紙に額縁のように付けられているのが見えてきませんか?
平成28~31年(2016-2019)の修復工事では、立花伯爵邸「大広間」の壁紙をすべて貼り替えました。
壁紙を担当する株式会社 丸二 の職人さん達が下見に来た際に、わたしは初めて「四分一」を視認しました。何年も見続けてきた「大広間」なのに……
壁紙の貼り替えと同時に「四分一」も新調するのですが、いくつかの難点があげられました。
- 最近は紙の貼り付け壁が激減、さらに「四分一」の施工例は希少で、作業経験のある職人さんも少ない。
- 「大広間」の「四分一」は黒漆塗り仕上げであるが、細長い木材に漆を塗るにはコツが必要。あつかえる職人さんはごく少数のうえ、高齢化している。
- 「大広間」の「四分一」は最長で2メートルをこえるほど長く、必要本数も大量。漆塗りには体力を要し、高齢化された職人さんから避けられる可能性がある。
再利用しては?とうかがうと、「四分一」は釘付けされていて、古い壁紙とともに、むしりとるように撤去するしかないとのこと。
釘? どこ?
1年後、実際の作業を見てはじめて理解できました。
四分一の取り付け【釘を隠すための工程】
埋込画像が出ないときは、再読み込み(リロード)してください
両端がとがった合釘 アイクギ を、「四分一」の内側に半分打ち込みます。
その合釘が仕込まれた「四分一」を、傷が付かないよう当て木をして、紙を張り終わった壁に打ち付けています。
もちろん、ぴったりと納まるように、寸法は現場にて合わせられました。
壁紙の撤去は修復工事の序盤。
畳や瓦が次々に取り除かれ、「大広間」の内部構造があらわになっていきます。
外された「四分一」の断面を見てはじめて、角をけずった「面取り」加工に気がつきました。
当然、「大広間」のすべての「四分一」が面取りされています。
とても丁寧に工程が重ねられた贅沢さ。
これが、大名から伯爵となった立花家の、400年の歴史の重みです。
しかし、どれも派手なキラびやかさはなく、一見しただけでは分かりにくい……
立花家史料館の学芸員としては、是非とも皆さまに、微に入り細に入り延々と解説したいところです。
これから、明治43年(1910)に新築お披露目された「立花伯爵邸」の各所に隠されている贅沢さを、これまでの修復工事の記録や裏話とともに紹介していきます。
【立花伯爵邸たてもの内緒話】
明治43年(1910)に新築お披露目された立花伯爵邸の、内緒にしている訳ではないのに知られていない、声を大にして宣伝したい見どころを紹介します。
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