柳川藩主立花家が所蔵していた「兼光」の刀
2024/10/22柳川藩主立花家が所蔵していた刀剣類について、台帳形式で現時点で確認できる最古の記録は、明和4年(1767)10月にまとめられた「御腰物由来覚」です。
この「御腰物由来覚」は、立花家で代々大切に受け継がれてきた刀の由来を、今までのような口伝えでなく、きちんとした記録として残そうと、担当係「御腰物方」で相談し、寛永年間(1624~44)から当時までの所蔵刀剣について吟味の上、作成されました。
この 「御腰物由来覚」に記載されている133口のうち、「兼光」の刀は6口。
『柳川の美術Ⅱ』 の翻刻を引用して、記載順で紹介します。
ただし、記述は当時の立花家での理解によるものなので、内容の正確性は担保されないことをご了承ください。
柳川市史編集委員会『柳川文化資料集成 第三集-二 柳川の美術Ⅱ』(柳川市 2007.3.22発行、2020.3.31第二刷)401-419頁掲載の翻刻を引用。読みやすさを優先して、旧字、異体字、合字、変体仮名を通用の文字に、漢数字を算用数字に改めています。また敬意をあらわす欠字も省略しています。
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一 兼光 無銘 2尺4寸5分 御刀 ◉立花家史料館所蔵
右は道雪様【宗茂義父・戸次道雪】御定差、宗茂公【初代藩主・立花宗茂】へ御譲、御合戦度毎に宗茂公被成御差候由、御代々御譲にて御座候処、鑑茂公【3代藩主・鑑虎】御代貞享2年丑(1685)12月原尻老之丞へ被下之候、其後宝永元年申(1704)9月28日立花源左衛門宅へ鑑常公【4代藩主・鑑任】御光儀之節進上之、唯今御拵等無之
※追記「此御刀天明4申年(1784)6月28日 梅岳御霊社へ従若殿様御奉納ニ相成ル」
一 備前兼光 銘有 8寸7分半 御小脇指
右は寛永年中(1624-44)御求ニ相成候由 御帳に有之候、其後於石様【3代藩主・鑑虎娘 石】為御守御脇差被進之候処、延宝3年卯(1675)2月28日戸次勝左衛門手前より役方へ相渡、請取候段御帳有之候
一 兼光 無銘 2尺9分 大御脇差
右は英山様【3代藩主・鑑虎】御代より御持伝之御道具、以前御刀之由延宝年中(1673-81)之御帳面ニ有之、当時御野差相成居申候
一 兼光 無銘 2尺6寸分半 御刀
右は延宝元年丑(1673)11月被為 召之候、其後源五郎様【2代藩主・忠茂息子 貞晟】へ被進之、以後御譲之御道具、当時御定差
一 兼光 銘有 2尺9分 御刀
右は天和3年(1683)鑑常公【4代藩主・鑑任】 御誕生之節、本多隠岐守様【4代近江膳所藩主・本多康慶、鑑任実母の兄弟】より被進之候道具と相見へ申候、併猶又吟味之事、元文4未年(1739)貞則公【6代藩主】就御出府御差料之御拵出来、寛保3年亥(1743)4月鑑通公【7代藩主】御花畠へ被成御座候節被進之候
一 波游兼光 金ニて入銘波游未代之劍兼光也/羽柴岡山中納言秀信所持ト有リ 2尺1寸4分半 御刀
折紙金五拾枚
右は往古上杉謙信秘蔵之道具之由、上杉家にては小豆兼光と申、重宝ニて有之候処、景勝【初代米沢藩主・上杉景勝】時代羽柴岡山中納言【小早川秀秋】依所望彼家ニ相渡り、波游と改名有之候由、其後年数経、払物ニて被為召候由、享保年中(1716-36) 有徳院様【8代将軍・徳川吉宗】御代上杉家兼光御僉儀[=詮議]之処、此方様御家に有之候段、本阿弥家より達上聞候処、可被遊上覧之由沙汰有之段、本阿弥家より為御知申上候ニ付、早速御硎[=研ぐ] 等被仰付之、其御用意有之候得共、入上覧不申候て相済申候
羽柴岡山中納言秀信とは、小早川秀秋が関ケ原合戦後に改名した「秀詮」の書き間違いでしょうか。
現在、立花家史料館が所蔵しているのは「 兼光 無銘 2尺4寸5分 御刀 」のみです。他の刀剣類は様々な理由により、いつしか立花家から出ていってしまいました。
「 兼光 無銘 2尺4寸5分 御刀 」は、戸次道雪から立花宗茂へと譲られ、宗茂自身も合戦のたびに指料として腰に差したと伝えられます。
一般的な評価では名物「波游兼光 」とは比べようもありませんが、柳川藩主立花家においては、この「 兼光 無銘 2尺4寸5分 御刀 」 こそが家の重宝であり、必ず残すべき刀であったのです。
11月30日15時~開催のオンラインツアー「立花宗茂遺愛の刀剣と備前刀の魅力」では、この「 兼光 無銘 2尺4寸5分 御刀 」 が主役となります。
ロマンあふれる伝来とともに、刀身そのものの美しさや見どころをカメラで直接撮影しながら 、備前刀のスペシャリストである望月規史氏(九州国立博物館 主任研究員)と杉原賢治氏(備前長船刀剣博物館 学芸員)が解説されます。ものすごく楽しみです。
当日参加が出来ない場合でも、後日アーカイブでご視聴いただけますので、ぜひお気軽にご参加ください。
【立花家伝来史料モノガタリ】
立花家伝来史料として大切に伝えられてきた”モノ”たちが、今を生きる私たちに語る歴史を、学芸員と読み解いていきます。
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