エツ船に乗る
2014/6/3先日、エツ船に乗る機会がありました。
エツとは、カタクチイワシ科の魚で
日本では有明海にのみ生息しており
初夏になると、産卵のために筑後川を遡上してきます。
鮮度の落ちが早いため地元でしか味わうことができません。
加えて分布域が狭いので、「幻の魚」とも言われていますが
本当の「幻」にならないように、エツが生息できる環境を守る活動も行われているようです。
エツ漁の解禁期間は5月1日から7月20日。
許可された船だけが漁をすることができます。
エツ船は、屋形船の上で新鮮なエツ料理を楽しむもの。
この季節の、筑後川河口域の風物詩です。
私たちの乗る船は、大川の若津港を午後5時頃出港しました。
海のように見えますが、川です。
干潮の時間帯だったので、潟が見えています。
船に乗り込むと、テーブルにはすでに料理が用意されていました。
皿いっぱいの幻の魚。
あらゆる調理法で登場。
まずは塩焼き。
そして唐揚げ。
他に南蛮漬けや煮付けも。
さらには骨の唐揚げ。
エツの骨も、うなぎの骨と同じように、唐揚げにするとお酒のおつまみにぴったりの味です。
向こう側のくるくるした部位は、腹の骨だそうです。
そして卵。
忘れてはいけない、刺身。
エツは小骨が多いので
鱧のように骨切りがしてあります。
事前にお願いすれば、エツ漁の見学もできます。
きらきら光る川面に浮かぶ船には
「えつ」と書かれた旗(許可証だとか)がなびいています。
残念ながら、この日は1匹しかかかりませんでした。
獲れたエツは、すぐに味わうことができます。
漁師さんから手渡されるエツ。
この後、刺身になって出てきました。
やはり獲れたては抜群の味でした。
料理は、エツ三昧の他に、おにぎりも用意されており
有明海の一番海苔で巻いて食べます。
そのおにぎりもまた絶品。
料理に舌鼓を打ち、みんなでワイワイしていると
「のだめカンタービレ」でもおなじみの、昇開橋が見えてきました。
筑後川昇開橋は、大川市と佐賀市を結んでおり
船の通行のために、橋桁の一部が上下する仕組みになっています。
元は鉄道用の橋でしたが、今は歩道橋として活用され、重要文化財に指定されています。
昇開橋をくぐります。
幻の魚と、絶品おにぎりを頬張る私たちを乗せた船は
筑後川の上流に向かってずんずん進みます。
川岸に葦が見えてきました。
筑後川下流域には、エツにまつわる、あるお話が伝わっています。
むかしむかし、貧しい身なりをした僧侶が、筑後川を渡る船賃がなくて、困っていました。
見かねた一人の若者が、対岸に渡してあげたところ
僧侶はお礼にと言って、葦の葉を川に流しました。
すると、葦の葉は光る一匹の魚となったのです。
それからというもの、この魚が筑後川に繁殖し、若者は魚をとって暮らしを立てるようになりました。
この魚がエツで、僧侶は弘法大師であったということです。
葦原を見ていると、この伝説を思い出します。
体が葉のように平たいエツにはぴったりの伝説です。
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので
清力美術館付近で折り返し、再び昇開橋をくぐって、出発地であった漁港に着く頃には
まもなく日の入りという時刻になっていました。
約2時間の屋形船の旅も、いよいよ終わりです。
行きは桟橋から乗ったのに、帰りは直接岸に降りました。
いつのまにか潮が満ちていたようです。
潟は見えなくなっていました。